
「ふにゃぁぁぁ・・・」
あたしは、普段と変わらず目覚めのあくびをして、ベットから降りた。
ベットの脇の壁に掛けてあるはずの制服に着替えて、いつものように下に降りようとした矢先、
あたしは重大なことに気がついた。
っていうか、起きたら即座に気づくもんかもしれないが、あたしは寝起きだけがかなり悪い。
なのでいままで気がつかなかったらしい。
その重大なこと……、それは、部屋が違う。
確かに、昨日は自分のベットに寝たはずだ。
だが、ここはどうだ。全く雰囲気からして違うではないか。
また改めて見てみると、ふかふかのベットにとってもはだ触りの良いシーツ。
そして何より、あたしの服装が違うではないか。
あたしは、普段からTシャツに短パンという姿で寝る。
しかし、今現在はネグリジェ姿なのだ。
これは一体どうしたことなのだろう……。
あたしが答えの無い問答をしようとしたとたんに、部屋のドアがノックされた。
大体5mの正方形っぽい形をしている部屋の中には、ほぼ中心にあるあたしが寝ていたベットの他に、
ドアと反対側にあるテラスっぽいところへと行く大きな窓と、
ドアから見て右側にあるクローゼットのみしかない。
あたしがおろおろしていると、勝手にドアが開いて1人のメイド服の女性が出てきた。
その女性は、おおよそ20代前半で、すらりとした身体に整った顔のパーツ。
お世辞じゃなく、同性のあたしでさえどきまきするほどの女性だ。
と、その女性の声が変な感じで聞こえてきた。
『立川沙織様ですね。当館の主がおまちかねでございます。
クローゼットにある洋服にお着替えなさって下さい』
そう言うと、その女性はドアを閉じた。
まあ聞きたいことは山ほどあるものの、着替えろといわれたのだから、着替えなくてはしょうがない。
クローゼットへの中身は、一着の薄水色のワンピだった。
腰の所とえりの所に、白をあしらったかわいらしいものだ。
と、あたしはクローゼットの床部分に、麦藁帽子っぽいつばの広い帽子を見つけた。
これには、水色のリボンがあしらってあるので、一目でこのワンピとおそろいであることが分かる。
それに着替えたあたしは、勇気を持ってドアを開けてみた。
すると、外にはさっきの女性が立っていて、私が来るのを待っていた(と思う)。
『では、私に付いて来て下さい』
やさしく言ってきた女性に付いていっている途中、あたしはその廊下の豪華さに目を覆った。
所々にさりげなく飾ってある絵画に、皿や壷。
見た感じからして高そうなものである。
しかも!この廊下に敷いてあるじゅうたん。
毛が長いのか、足音が全くしない。
あたしがどこともなくきょろきょろしていると、突然前の女性が止まった。
『ここで主がお待ちかねでございます。どうぞ』
女性が止まったのは、かなり背の高いドアの前だった。
開けてもらった所から入ってみると、そこは食堂っぽいところだった。
長方形のテーブルのドアとは反対側の方に、1人の男性が座っていた。
『やあ、ようこそ。当館の主、アルデュリッヒ・トリスチュリーだ。トリスと呼んでくれ。
そして、ようこそ「サイレント・シティー」へ』
それからあたしは、トリスって人に呼ばれて、その人の隣りの席へと座った。
そこで、今まで思っていた疑問なんかを全部ぶつけてみようと思ったのだが、声がでない・・・。
というか、少し荒げると聞こえる息の音さえしない。
おかしい。
おかし過ぎる・・・。
あたしの気持ちを察したのか、トリスって人が口を開いた。
『はははは、ここでは一切の音が存在することを許されていない。
なので、人間の声さえも出ないのだ。だが、まあ一種のテレパシーのようなもので
なんとかここの人間同士が会話をしているといった状況なのだ』
は?
テレパシー?
ってか、そんなものは、あたしの世界では存在すらわからない。
でも、ここでは普段の会話に使われているのだという。
一体どういうことなのだろうか・・・?
『ここはね、そもそも下界を見捨てた人が来るところなんだ。でもね、時間がたつにつれて、
ここの存在を皆が忘れ始めた。皆が忘れてしまうところなど、何の存在価値も持たない。
というわけで、神はここの場所を消そうとした。だが、ここの長老の進言により、
ある制約を受け入れるならここを存続させようということになったんだ』
まさか、それが「音をなくす」ということなのだろうか・・・?
『君も分かったようだね。そう、神はここの音を全て消し去った。
人の声、木々のざわめき、小鳥のさえずりなど何もかも。そして、神は私達があきらめるのを待った。
皆に忘れられたここの場所に住む人々が、生きるのに疲れるのを』